昭和61年(1986年)ごろのカシオのサンプルトーンSK-1|録った声を低い鍵で鳴らすと別人のように太くなった
1万6000円で、自分の録った音が鍵盤から出てくる。昭和61年〜平成2年(1986〜1990年ごろ)のカシオのサンプルトーンSK-1について、発売の年月をカシオの社史で、値段をMONOistの記事で、録れる長さと内蔵の音色を1986年の英国の音楽誌のレビューで確かめました。

40代の時間軸
カシオの社史「カシオの歩み」の年表は、1986(昭和61)年3月の欄に「全ての音を音源にできるサンプリング電子楽器『サンプルトーン SK-1』発売」と書いています。MONOistで小寺信良さんがこの機械を振り返った記事によると、同じ年に国内の楽器メーカーが出したローランドのS-50やコルグのDSS-1は20万円台後半から30万円台。SK-1はミニ鍵盤を並べた簡素な形で、値段は1万6000円でした。サンプラーを試してみたかったアマチュアや、好奇心の強い人を中心に、大ヒットしたといいます。
どれくらいの音が録れたのか。1986年に英国の音楽誌International Musician & Recording Worldが載せたレビューでは、取りこめる長さは最大1.4秒です。録った一つの音を鍵盤の高さに合わせて速く、または遅く読み出すので、和音にすれば4音まで重なります。ピアノ、トランペット、人の声、パイプオルガンなど8つの音色も最初から入っていて、メロディは400音まで覚えさせることができました。
同じレビューは、本体にヘッドホンの差し口がなく、音は内蔵のスピーカーひとつから出ると書いています。だから夜でも、鳴らせば隣の部屋まで届いてしまう。机の上で空のコップをスプーンで叩き、チンという澄んだ音を録って、いちばん低い鍵を押す。すると鐘のような、ぼわんと間延びした音が、プラスチックの筐体ごとかすかに震わせながら出てきました。弟に「あ」と言わせて録ると、高い鍵では早回しのような甲高い声、低い鍵ではのっそりした太い声になる。レビューの筆者も、上げれば声がネズミのようになり、下げれば低音の歌い手のようになると書いています。電池を入れた本体は片手で持てる軽さで、背中の端子からラジカセへコードをつなげば、そのままカセットに録ることもできた。机の電灯の熱で、黒い鍵盤の表面がほんのり温かくなっていました。
カシオは2026年5月にサンプラーの「SXC-1」を発売しています。MONOistの同じ記事によると、3万9930円で乾電池で動き、スピーカーを内蔵し、16個の色つきのパッドをたたいて録った音を鳴らします。いまは電話機でも長い音をいくらでも録って並べられますが、1.4秒に何を入れるかを机の前で迷う時間はありません。
台所で母が鍋のふたを落とした音を、ちょうど録音の途中だった兄がそのまま鍵盤に載せてしまい、夕食のあいだじゅうその音で「きらきら星」が流れていた家がありました。1万6000円は、おこづかいをためて自分で買える人もいれば、親戚から譲られるまで店の見本を触るだけだった人もいる値段です。SK-1に初めて録りこんで鍵盤で鳴らしたのは、誰の声、あるいは家のどの物の音でしたか?
カシオのサンプルトーンSK-1を思い出す三つの手がかり
- カシオのサンプルトーンSK-1にまつわる場所を一つ思い浮かべます。家、学校、駅前、友だちの家など、名前が出てこなくても構いません。
- そこで一緒にいた人と、音・匂い・手触りのどれかを書き添えます。曖昧なところは「たぶん」「覚えていない」で大丈夫です。
- いまの自分へ一言だけ残します。正解を書く欄はありません。次に誰かとその話をするときの入口になります。
出典と編集方針
このページは、公開資料で時代背景を確認しつつ、特定の世代の体験を一つに決めつけない読みものとして編集しています。地域や家庭による違いがあります。あなたの記憶と違う箇所は、間違い探しではなく会話のきっかけとして扱ってください。
- カシオ計算機「カシオの歩み 第2章」
- MONOist 小寺信良「もう一度歴史を変えるか カシオ計算機のサンプラー「SXC-1」大ヒットの秘密」
- International Musician & Recording World「Casio SK-1」(1986年、Muzines アーカイブ)
- 編集確認日:2026-11-03。出来事の事実確認と、個人の記憶・感想は分けて記載しています。